欠損金の繰越控除(実務からの気付き事項)

先日、「欠損金の繰越控除」というタイトルで、いわゆる繰越欠損金が法人の年々の利益と税額との関係をどのようにつないでいるかというテーマで少し書きました。
今日書こうと思うのは、同じ欠損金の話題でもちょっと実務寄り(後記:むしろ理論寄りかも?)の話なので、法人税の申告書作成に日頃従事してない方にはピンと来ないだろうということを予めお断りしておきます。今回はむしろ同業の会計事務所で申告書作成に従事しているスタッフさんにちょっとした気付きを提供しようという線で書いてみようと思うのです。

会計事務所に勤務して、中小企業の申告書作成(ないしはその下準備作業)に従事していますと、いつもいつも黒字の年ばかりというわけにもいかず、しばしば別表七(一)を扱う機会がある筈です。「欠損金又は災害損失金の損金算入等に関する明細書」というタイトルに示されているように、この別表で欠損金の残高を発生年度別に繰越管理をするようになっています。実際に損金算入(所得額からの控除)を行うのは別表四、俗に言う「税務上の損益計算書」の上でのことなのですが、まだ使ってなかった欠損金(控除未済欠損金)を今年別表四でいくら使っていくら残ったので次年度に繰越しますよ、というのを別表七(一)で管理するわけです。もちろん赤字の年は欠損金が発生しただけで使うことが無いので、単に別表七(一)上で増える(発生する)記載があるだけになりますね。

ところで、日頃何気なく「繰越欠損金」と口にしているのですが、これって、ア)昨年度から今年度に繰越されてきた額、イ)今年度から次年度へ繰越される額、のどちらのことなんでしょう?ちょっと考えてみてください。頭の体操というヤツです。答は決まりましたか?

少なくとも別表七(一)について言えば、私の答はシンプル、イのほうです。表の右端の欄は「翌期繰越額」となっていますよね?
・・・・・・でも、表の左のほうの「控除未済欠損金額」だって、欄のタイトルはともかく、ニュアンスとしては「前期繰越額」じゃないんですか!?
、、、と内心でツッコんだ方はいらっしゃいませんか?
実は、今日はそこのところで一つ、ある種の思い込みを修正出来ればと思って書いております。
この「控除未済欠損金額」欄の金額なんですが、実は、前年度の別表七(一)の「翌期繰越額」の金額と同じではない場合もあるんです!

どういうときにそうなるか、お心当たりはありますか?すぐ分かった方は、おそらく顧客法人様の合併を経験したことがあるのではないでしょうか。
実務ではややレアになるかとは思いますが、期中に適格合併を行って、被合併会社の有していた控除未済の欠損金を引継いだときは、別表七(一)付表一を作成して本来の前期繰越額と引き継いだ額とを集計し、そこから別表七(一)の控除未済欠損金額に数値を飛ばす形になります。
別表七(一)付表一を未経験の方は、ぜひリンク先(国税のHPに開示されている各種別表・付表のPDFファイルです)でご覧になってみてください。

例えば、黒字続きの大きな親会社が少額の赤字続きの子会社を吸収合併し、その合併が税務上の適格合併に相当した場合、存続会社(ここでは元の親会社)は前年度の申告では別表七(一)を作成していないにもかかわらず当年度の申告では別表七(?)及び別表七(一)を作成し、しかも引き継いだ過去の各年度の欠損金は当年度に一発で控除に使われて次年度には繰越されない、なんてこともあり得るわけですね。つまり、期中にどこからともなく引継ぎで生じた欠損金がその期に即消化されていく事例です。

途中でアかイか、と尋ねたのは、言葉遊びのようなものですので、そこまで深い意味はありません。ただ、合併などの事情で前期末には無かった欠損金がテレポーテーションのようにひょいと出現することがある、というのは実務のルーチンの中に入り込み過ぎていると盲点になっているかも、と思いましたので、話題として採り上げてみました。情報として、あるいは頭の体操として、お役に立てば幸いです。なお、この別表七(一)付表一はやはり使用頻度が低いのでしょう、弊事務所で使っている財務会計ソフト(また別の機会にご紹介しましょう!)では対応されておらず、この付表だけは手書きで作成し、前年の別表の繰越で自動記入される控除未済欠損金額(=前期末の繰越欠損金額)の金額を上書き修正してあげる必要があるという仕様になっておりました。そんなことからも、一度は見ておかないと、いざというときにアタフタしそうです。なお、上のリンク先の付表一の様式では、消滅会社と存続会社の決算月が異なる場合にどう書くか、などというのもチェックのしどころです。こんなこともあるからいきなり別表七(一)に金額を流し込ませる仕様にしなかったのでしょうね。

今回はここまでです。


この記事を書いた人

公認会計士・税理士 林宗義