確定申告雑感その1「合計所得の金額が重要性を増している件」

スマートな会計事務所だと既にピークアウトしているのかもしれませんが、弊事務所ではまだもう一山残っている感じです。とは言うものの、少し心の余裕も出てきましたので、今年の確定申告の中で気が付いたことなど書き付けてみます。
で、第一弾としては、「合計所得の金額が重要性を増している!」という件について。
ここ数年の改正の中で、所得税の計算における所得控除のうちでも重要な二つの項目である、配偶者(特別)控除、および基礎控除が、誰でも同じ金額というわけではなくなりました。所得が一定水準を超えて大きい人からは、これらの控除を所得の水準に応じて減額したり、全く控除しなかったり、という仕組みが取り入れられたのです。
そして、所得をどこでどう捉えて判定するか、というテクニカルなところで、採用されているのが「合計所得の金額」という概念なのです。シンプルな申告のケースですと、申告書の鏡、いわゆる第1表の、左側の真ん中より少し下で、事業所得、不動産所得、などなどをいったん集計している合計欄がありますが、あそこの金額のことです。
ただ、実はこの第1表で集計しているのは、総合課税される所得項目だけでして、これらとは別に分離課税される所得項目を集計しそのそれぞれに対する税額をまとめる役割をしている第3表というものもあるのです。
で、「合計所得の金額」の定義では、退職所得の金額も含む、とされていまして、これは実は「申告に入れなかった退職所得」についてもそうなのです。(退職所得を申告に入れないというのは、脱税という話をしているわけではなく、そうして構わない場合が認められていて、しかも退職所得の多くの場合がそうなんです)

とにかく、「合計所得の金額」には退職所得(退職金の受給額そのものではありませんよ。退職金の源泉徴収票を見れば分かります!例えば15年勤めた人で600万、25年なら1150万円までは貰っても退職所得ゼロですので、中小企業勤めの方はまず心配ありません。)を算入して、その上で配偶者控除等の金額の判定をする。これがルールです。
(と言うか、前から合計所得の金額に退職所得は含めるのですが、そのことの影響が重要性を増したのが冒頭に書いた人的控除に関する改正だった、ということなんです)


また、この話は、何も確定申告をしないといけない人だけの話ではありません。年末調整に際して、これも最近になって、前から提出していたマル扶・マル保に加えて、「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」という誰も覚えられない呪文のようなタイトルの一枚が加わってますよね。あの中で、やはり配偶者控除等を判定するために、配偶者の所得や納税者本人の所得について書かせるようになっています。
・・・分かりますか、つまり、仮に転職して前職場から退職金を貰っていた人は、すぐ就労した新しい職場でまたマル扶などを提出して年末調整を受けるでしょうが、その際にこの「マルX」(呼び名が分からないので、マルエックスとしときますw)に退職所得も反映させて書かないといけない!ということなんですね。
たぶんですが、この辺、ややこしすぎてほとんど誰も分かっておらず、マルXにしたって会社任せで書いてくれるくらいに思っている人も多い中、けっこう間違えてしまっていて、本当は満額は控除できない控除を受けている人が一定数いると思われます。
国税庁もこの点は憂慮しているようでして、HP掲載(ないしは署で配布)している「確定申告の手引き」の書きぶりなどを工夫して対応しているつもりのようですが、ここでもちょっと面白いことになっていまして(別の機会に書きますね)、混乱を深めているというのが実情のようです。
というワケで、退職金をけっこうそこそこ貰った皆さん、うっかりしていると、後日「あなたは過少申告してます!」などと恐怖の電話が税務署からかかってくるかもしれませんよ!そういうときには、弊事務所に電話を入れて、前年の申告資料一式(申告してない場合も源泉徴収票など)を持っておいでくださいませ。この件では取り返してあげるわけにはいきませんが、少なくとも間違いの上塗りを防ぎ正しい修正申告を出来るようにお手伝いは致します。

ではまだ残る確定申告業務に戻ります・・・

【後記】この件書いた後に、最後のほうで書きました転職した人のケースで、逆にマルエックスをきちんと書いた場合にももう一つ罠があるという情報を得ました!
市町村に提出する「給与支払報告書」(源泉徴収票の市町村版です)に配偶者控除の欄が「無し」とされてしまうと、市町村はそのまま配偶者控除無しで対応してしまうので、こういう方は別途に住民税の申告だけする必要があるというのです。
高給の転職者は、税金を少なく納めてしまうか多く納めてしまうか、両方の罠を上手くクリアしないとピッタリ納められないという変なゲームになってますね・・・
【後記その2】「マルX」ないし「マルエックス」と書いてしまいましたが、あれ、「基配所」と言っている人がけっこう多いみたいです。呼びにくくないスか・・・

この記事を書いた人

公認会計士・税理士 林宗義